
肛門治療
肛門治療
痔核に対する治療方法は以前、腫れているところを切除する結紮切除術が主流でした。この方法では多く患者さんは好発部位の3カ所を結紮切除するため、痛みが強く、数日入院が必要でした。しかし、2005年以降は切らないで治す硬化療法(ジオン注)が主として行われるようになり、術後帰宅が可能となりました。
1.ジオン注とは
「ジオン」という注射剤(硬化剤)を用い内痔核(いぼ痔)に対して、注射による治療を行うものです。当院では局所麻酔下にジオン注射療法を行っています。局所麻酔で行うことにより術後、問題なければそのまま帰宅することができます。
2.内痔核とは
肛門の粘膜下には、血管が集まって肛門を閉じる働きをするクッションのような部分があります。肛門への負荷が重なるとクッションを支える組織(支持組織)が引き伸ばされて、クッション部分が腫れ、出血したり、肛門の外に出たりするようになります。これが内痔核です。痔核は主に、前側を12時とすると時計方向で3,7,11時方向の3カ所にできることが多く、その理由は痔動、静脈がこの部位を走行するからです。
内痔核はその程度により、1-4度に分類されます。
(Goligher分類)
第1度:排便時に脱出しないもの
第2度:排便時に脱出するが、自然に還納する
第3度:排便時に脱出し、用手的な還納が必要
第4度:常に脱出し、還納できない
第1度から3度の痔核がジオン注の適応とされています。

3.ジオン注の投与方法(日帰り手術)
患者さんはうつぶせの体位をとります。肛門周囲に局所麻酔を行い、肛門を十分に拡張し、上図のように痔核に対しジオンを4カ所に分割(四段階注射法)投与します。これは、痔核に薬液を十分に浸透させるための方法です。多くの患者さんは先ほど述べましたが、3,7,11時方向に痔核がありますのでこの方法を3カ所に行います。
患者さんの多くはこの方法だけで治癒可能ですが、外痔核成分の多い人で外に飛び出ている痔核部分は切除しないときれいに治りません。多くは1カ所に見られることが多いのでその部位を少し切除し奥の部分はジオン注を行います。1カ所ですので術後はそれほど痛みません。また肛門ポリープを合併している人、痔核の保持年数の長い人で皮膚のたるみ(皮垂)がある人、肥大乳頭のある人ではこれも切除しないときれいに治りません。

4. 当院で2016年4月から2025年5月までに痔疾患で手術した総数は163例で、そのうち内痔核は149例でした。
術式でジオン注とした症例はジオン注を主体とし、皮垂、肥大乳頭、小さなポリープを追加で切除したものも含みます。
痔疾患手術症例 (2016/4~2022/12)
※Mcgivney :ゴム輪結紮術
その他の疾患は外痔核2例(切開、血栓除去)、痔瘻8例(排膿、根治術)、直腸粘膜脱3例(結紮切除術)、大きな直腸肛門ポリープ1例(結紮切除)でした。
この結果から半数の患者さんはジオン注で治療可能です。また先ほど述べましたが、結紮切除をせざるを得ない患者さんでも1カ所のことが多く、他の部位に対してはジオン注を行いますので痛みのコントロールは帰宅しても可能かと思います。
5.術後経過
術後15分くらい様子をみて問題なければ帰宅できます。結紮切除した場合は2~3日ほどピリピリした痛みがあります。また肛門部の重苦感が出ることがありますので鎮痛剤を服用して頂きます。合併症としてまれに注射部位のビラン、潰瘍などが見られることがありますが、保存的治療で治ります。
6.再発例(10例)について
再発した症例に対しては基本的に結紮切除を行います。ただジオン注施行後でも粘膜面が柔らかい症例ではジオン注を再度施行することがあります。
以上、当院での痔の治療法について述べてきました。痔でお悩みの方は是非ご相談下さい。